胃がん早期発見に向けて…

胃の病気

一昔前には、日本人の代表的ながんと言えば、『胃がん』でしたが、最近、胃がんは減ってきているなんて言葉を耳にする事が増えています。確かに統計でみると胃がんの死亡率は減少しています。
しかし、2018年の統計で、がん罹患数は、胃がんは大腸がんに次いで第二位で、実数では126,009人が罹っています。また、死亡者数は、2019年の統計で、肺がん、大腸がんに次いで第三位であり、42,931人もの方が胃がんで命を落とされています。
胃がんは、まだまだ日本人の国民病と言える状況です。では、胃がんにならないためには如何したら良いのでしょうか?胃がんの明らかな原因の1つに塩分摂取があり、ほかに米飯多食、熱い食べ物、不規則な食事などが挙げられます。しかし、これらを避ければ胃がんに罹らないとは言えず、予防策として、食生活として、牛乳、乳製品、生野菜、果物などが推奨されていますが、効果は限定的と言えるでしょう。また、ピロリ菌感染も胃がんと深く関わっています。ピロリ菌がなくなれば、胃がんもなくなるなど、極論を口にする人もいますが、現実的ではなさそうです。21世紀の現代でも、がんにならない方法を論じることは極めて困難であるのが実情と言えます。

今回は、胃がんを、適切な治療で治る可能性が高い早期の段階で発見するためには、如何すべきかを考えてみましょう。

がんは早期発見が大切


がん対策推進企業アクションのホームページから改変

まずは、一般的ながんの発生について解説しましょう。
体内で発生した1個のがん細胞は、何の症状もないまま増え続け、10年から20年くらいかけて、1㎝程度の大きさの塊になります。この1cm程度のがんの塊が、一般的にがん検診で発見できるギリギリの大きさと言われています。その後,2㎝程度の大きさになるのはわずか1~2年程度であり、この間が、早期がんとして診断される期間となります。それ以降は進行がんとなり、様々な症状が現れてきます。
これは、胃がんに限った事ではなく、がんと言われる病気全体に言えることで、早期発見できる期間は極めて限定的で、その間に目立った症状がないことが多いとされています。また、この発達過程は、がん全体のモデルとして示していますが、残念なことに、これより駆け足で短時間で進行してしまうがんもありますので、注意が必要です。

胃がんのステージと生存率

胃がんのステージは、I~IVの4段階に分類されます。ステージI~IIIは、各々がIA~B、IIA~B、IIIA~Cに分けられ、全体で8段階に細分されています。がんは発生部位の壁に深くまで達したり、リンパ節への転移個数が多いほど進行しており、遠隔転移や腹膜播種がある場合はがんの深さや領域リンパ節への転移の有無にかかわらずステージIVとなります。

では、ステージ別の生存率はどの程度なのでしょう?
生存率はがんの治療成績を示す一つの指標です。これは、がんと診断されてから一定期間たった時点で生存している患者さんの割合のことで、5年生存率が用いられる事が多いです。
国立がん研究センターが集計した2010~2011年のデータで、胃がんの5年生存率は、ステージIで94.7%、ステージIIで67.6%、ステージIIIで45.7%、ステージIVで8.9%となっています。
以上から、今回のテーマである「適切な治療で治る可能性が高い早期の段階」とは、ステージIの段階で胃がんの発見に至る事が必要となります。
では、ステージIとはどの程度まで進行した胃がんなのか、細かく解説します。

ステージIでは、遠隔転移や腹膜播種などを合併していない状態が必須です。その上で、胃壁への深達度が図に示す粘膜(T1a)または粘膜下層(T1b)までに留まり、リンパ節転移がない段階をステージIAに、T1aないしT1bでリンパ節転移が1~2個に限局しているものや、固有筋層(T2)に達するがリンパ節転移がないものをステージIBと分類します。
いわゆる早期胃がんはステージIAを指します。

胃がんの自覚症状

早期の胃がんでは、胃の不快感や胸やけ、吐き気、食欲不振といった症状を自覚する人もいますが、早期に症状が現れることはほとんどありません。このことが、がんを早期の段階で発見することを困難とする最大の要因とされ、『早期のがんには自覚症状がない!』と言うことが大切なポイントとなります。
進行がんでは体重の減少、つかえ感、胃痛、嘔吐、貧血、吐血、血便などの症状がみられることがありますが、かなり進行しても自覚症状がない場合もありますので、注意が必要です。私のキャリアでも、『がんの告知と同時に終末期宣言!』といった不幸な経験が多数あります。
また、上記の症状は胃がん特有のものではありません。胃潰瘍や慢性胃炎などの疾患でもみられることがあります。症状だけで胃がんかどうかを判断することは極めて危険です。

『適切な治療で治る可能性が高い』とされるステージIの胃がんは自覚症状が乏しく、何の症状もない事も多いと言えます。

ステージIにおける胃がんの治療法
お祭こっし~
お祭こっし~

身体に負担が少ない治療の代表が『内視鏡治療(内視鏡的切除)』です。

胃内視鏡を使って胃の内側からがんを切除する方法です。がんが粘膜層(T1a)にとどまっており、リンパ節転移の可能性がごく低い早期のがんで行われます。
内視鏡治療でがんが確実に取りきれたかどうかは、病理診断で確認します。がんが内視鏡治療では取りきれなかった、あるいは取りきれているが、深さが粘膜下層まで達しているなどの理由でリンパ節への転移が高いと判定されると、追加で手術が必要となる場合もあり得ます。

お祭こっし~
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内視鏡治療が困難な場合は外科的手術が行われます。

手術では、がんと一緒に胃の一部またはすべてを取り除きます。同時に胃の周囲のリンパ節を切除し、食物の通り道をつくり直す再建手術を行います。おなかを20cmほど切り開く開腹手術と、小さい穴を開けて専用の器具で手術を行う腹腔鏡下手術があります。現在は、腹腔鏡下手術が全盛となりつつあり、手術用ロボットを使った最先端手術も普及しはじめています。しかし、。腹腔鏡下手術やロボット手術が長期的にみて有効なのかについては、まだ十分に検証されていません。これら手術を検討するときは、担当医とよくご相談することが必要です。

手術で胃が小さくなったり、無くなってしまっても大丈夫なのですか?

基本的には大丈夫ですが、大きな障害を残すことあります。
胃切除術後障害について少し、解説しますね。

胃切除術後障害とは、胃切除術後に様々な胃の機能が失われることにより生じる障害のことを言います.
胃切除術後障害は胃が小さくなることや、迷走神経と言う大切な神経を切除したり内分泌機能の低下による消化管の協調不全といった総合的な問題が原因と考えられています。また、胃切除後の再建法式も影響しています。食物が十二指腸を通過しない再建法式では、消化管ホルモンの分泌に異常を生じると言われいます。
胃を切除することで、消化・吸収不良が生じたり、貧血や骨塩量低下など原因となり、身体の維持にも悪影響を及ぼすことがあります。胃は、食べ物を蓄え消化する重要な臓器です。これに手を加えることは、胃がんを治すためとは言え、身体に大きな爪痕を残すことは避けられないと言えます。

がんの手術が上手くいけば、元の身体に戻れるわけではないのでね。

残念ながら、ことはそれほど単純ではありません。

手術でがんが治っても、ある程度の、身体の機能を犠牲にすることは避けられないと言えます。

内視鏡治療にも後遺症があるのでしょうか?

内視鏡治療では、胃壁にがんを切除した創が残りますが、大きな後遺症はありません。

内視鏡治療で終われる早期の段階で胃がんを見つけられれば、その後も快適に生活できると言うことでしょうか?

その通りです。胃がんに限らず、がんの手術は、がんを治す意味では重要ですが、何らかの重篤な後遺症を伴う事が多いので、治療後の生活に不都合が生じたり、制限が加わることがあります。ですから、より侵襲の少ない治療で治せる、より早期の段階でがんを発見することが極めて大切と言えます。

胃がんを『適切な治療で治る可能性が高い早期の段階』で発見するためには?

胃がんをステージIの段階で、確実に診断することは不可能です。しかし、比較的早期の段階で発見する確率を上げることは、努力次第で可能と言えます。
では、早い段階で発見するためにすべきことをお話しします。ますは、確実にがん検診を受けることです。がん検診は無症状の早い段階の胃がんを発見する数少ないチャンスと言えます。胃がん検診にはバリウム検査(胃透視検査)胃カメラ(内視鏡検査)があります。両者を比較すると、早期胃がんの発見率は胃カメラ(内視鏡検査)に軍配があがります。可能なら、胃カメラ(内視鏡検査)を選択してください。最近では、採血によるABC検診も行われています。こちらは、胃がんリスク検診で、ピロリ菌感染の有無とペプシノゲンの値から胃の萎縮の程度を調べることで、胃がんのリスクが高い方を拾い上げる検査です。簡便な方法ですが、現段階では検診としての効果に関しての検証がなされていない状況です。
次に、先にお話しした胃痛やつかえ感などの症状を見過ごさす、専門医に相談することです。忙しい日々の中で、少しばかりの症状や、数日程度で改善してしまう症状は見過ごされがちですが、胃がんからのささやかなサインである可能性を忘れないで、適切な診察を受けることが大切です。

お話してきましたように、胃がんを早期の段階で確実に見つけ出すことは、極めて難しい作業となります。ステージIの段階で発見できれば、適切な治療で完治できる可能性が高いのですが、そのためには、胃がん検診の受診や、軽微な症状でも、積極的に胃カメラ(内視鏡検査)を受けることが大切です。大丈夫であろうと思う気持ちが、胃がんを発見する大きなチャンスをふいにすることは多々あります。気になる事があったら、専門医に相談してください。

 

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