大腸がん検診では、便潜血検査が行われます。これは、皆さんもご存じの通り、大便をスティックで採取する簡易的で広く普及している検査で、大便に血が混じっているかを調べます。大便に血が混じっているから、即、大腸がんであると怯える必要はありません。しかし、大便に血が付着したり、便器が血で真っ赤に染まると、誰しも、驚いてしまいますが、便潜血検査で陽性になったからと言って、大便を眺めて観察しても血が混じっている気配は全くありません。『なんだ、大丈夫じゃないか!』などと、安心して、二次検査を受けずに、放置してしまう方もいらっしゃると思われます。しかし、便潜血検査が陽性は大腸がんの可能性を示す大切なサインです。早めに、専門医に相談しましょう。
大腸がん検診で、便潜血検査の2日法が採用されています。これは、二日続けて大便を採取して、いずれか一方だけでも陽性となった場合、「要精査」と判定されます。
日本消化器がん検診学会全国集計委員会から、要精査となる率は5.6%とのデータが報告されています。即ち、20人に一人ほどが陽性となります。
この陽性に方のすべてに大腸がんが発見されたら、非常に多くの方が大腸がんであると言えます。
しかし、要精査となったからと言って、ここまで深刻ではありません。先ほどの5.6%の要精査が必要な方の、53.6%が大腸カメラなどの精検を受けて、このうちの4.0%の方に大腸がんが発見されています。
統計の話になってしまいましたが、まとめてみますと、一万人の大腸がん検診受診者のなかに、22人の大腸がんを患った方がいるということです。しかし、要精査の方の約半数が精検を受けていないので、実際は11人しか発見できていないのが、現在の検診の実態と言えます。残りの11人の大腸がんは早期がんで治療ができた可能性を見逃していることになります。
大腸がん検診で「要精査」となったら、必ず、専門医に相談しましょう。
便潜血検査が陽性となる代表的な疾患を下記にあげてみます。
- 小腸の病気:がん、潰瘍、クローン病など
- 大腸の病気:がん、ポリープ、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、憩室炎など
- 肛門の病気:内痔核、裂肛など
上にあげた疾患のうち、がんとポリープ以外は、腹痛や発熱など、他の症状で気付かれることが多い疾患です。逆にがん、特に早期がんは便潜血検査が陽性が、初期の唯一の症状である可能性が高いと言えます。その意味でも、大腸がん検診の要精査を放置することはやめましょう。
また、鼻血を飲み込んだりや胃潰瘍から出血など上部消化管の出血は、胃液や膵液などで血液中のヘモグロビンが変性してしまうため、便潜血検査が陽性とはなりません。もちろん、上部消化管からの大量出血など、血の量が多い場合は、陽性となる事も稀にありますが、基本的に大腸がんなどの、小腸、大腸疾患に特化したスクリーニング検査として行われます。
『毎年、大腸がんを受けて、便潜血検査は陰性だから、大腸がんは大丈夫!』といった意見を、時々、伺います。実に理論的で、うなずいてしまいそうですが、ちょっと、考えてみましょう。
『大腸癌の患者さんは全員、便潜血検査は陽性なのでしょうか?』
進行した大腸癌患者さんに便潜血検査を行った結果、1日法(1回のみ検査)の便潜血検査で70%程度が陽性となり、2日法(二日続けて検査)で80%が陽性となります。即ち、大腸がん検診では、2割の患者さんを見落とす事となります。これは、検診の特性として避けられないことなのですが、コストパフォーマンスが良い検査法を採用した結果です。より精度を上げるためには、多くのお金を追加する必要があり、やむを得ないと言えます。ちなみに、大腸がんが早期であった場合は1日法で40%、2日法で70%が陽性になると言われています。
大腸がん検診を受ければ、大腸がんを見落とさないとは言えません。
便潜血検査に反応しない大腸がんを見付けるにはどうしたら良いのですか?
検診では、問題なしとなりますが、大腸がんには、腹痛、便が細くなる、便通の変化など様々な症状があります。異常を感じたら、専門医に相談することが大切です。
便潜血検査で陽性になった方は、がんを見つけるチャンスと言えます。痔持ちだから、便に血が混じるのは当然と考え、専門医に相談することをためらってしまっては、大失敗です。進行した大腸がんを見逃した場合、翌年の検査では、手術ができない超進行大腸がんになっている事もあります。大腸がんは早く見つければ、かなりの確率で完治が望める病気です。
必ず大腸内視鏡検査を行い、早期発見につなげていきましょう。まずは、大腸がん検診や内視鏡検査に詳しい、専門医にご相談ください。
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